「境界知能」とか「グレーゾーン」という言葉は、インターネットで目に触れる機会が多くなったというのが実感です。

そこで、今回は「境界知能」についてです。この「境界知能」の「境界」という単語から人によっては色々とイメージをされるかもしれませんが、実際「境界知能」がどのようなものなのかを確認していきたいと思います。

「境界知能」とは

一般的に「境界知能」「知的障害グレーゾーン」、そして「グレーゾーン」と言われるくくりがあります。はっきりと知的障害の診断まではつかないものの、IQは正常域でもなく、さまざまな困難さを抱える人たちのことをイメージされることが多いではないでしょうか。

そのイメージとは異なり、「境界知能」「グレーゾーン」の困難さは、単にIQが「境界ライン」辺りにあることが原因ではないことが最近分かって来たようです。

例えば、「境界性パーソナリティ障害」は、かつては「精神病」と「神経症」の境界にある状態と考えられ、その為、「境界」という言葉が使われていました。ところが、「精神病」と「神経症」とは異なる性質をもつ全く別の障害であり、「愛着障害」や「複雑性トラウマ」によるものだと解りました。


このグレーゾーンは、知的障害の定義の変遷から見ていくのが最も理解しやすいでしょう。現在の知的障害の定義では、おおよそIQ70未満で社会性に障害があることとなっています。この定義であれば、およそ2%の人が知的障害に該当することになります。

しかし、ひと昔前のWHO(世界保健機関)によるICD(国際疾病分類)第8版(ICD-8:1965~1974年)では、IQ70~84までが境界線精神遅滞といった定義がなされていました。

「精神遅滞」は、いまで言う「知的障害」のことです。つまり現在の「グレーゾーン」は、かつて「知的障害に含まれていた」ことになります。これは実に、人口の約14%(日本では約1700万人)に相当するのです。つまり、およそ7人に1人がこのグレーゾーンであるということになるのです。

「障害年金」受給の可能性は?

「障害年金」の受給の可能性について、以前ブログを掲載したことがあるので、参考資料として、<知能指数IQ>の結果で【障害年金】の受給の有無は決定するのか? を紹介させて頂きます。ご興味がある方は是非ご覧下さい。

境界知能、グレーンゾーンは、IQ70~84とされているので、上表の(軽度)IQ51~75の一部が重なっている。

とは言え、IQ70以上で知的障害と判定されなかったとしても、ご本人が生きづらさを感じていることは少なくありません。

それにも関わらず、知的障害ではないという理由で、健常者と同様に扱われることも少なくありません。確かにある部分では能力が高いこともあり、周囲から期待されることもあります。周りから期待されることは、幸せなことも、良いこともとも捉えることもできますが、逆に苦しんでいるケースも。

境界知能・グレーゾーンの意味合いの違い

幼児期、学童期と成人期で、各々「境界知能」「グレーゾーン」と言われる場合の意味合いが違っているの注意が必要です。

(1)幼児期、学童期のグレーゾーンの場合

 知的障害なのか、そうでないかのか、まだどちらとも解らないというニュアンスがある。これは「障害ではないので安心して下さい」という趣旨ではありませんので注意が必要です。

 お子さんがグレーゾーンと診断をされ、医師から「様子を見ましょう」と言われたので、何もしないで手をこまねいているケースもあるようですが、それは大きな誤解で、「これからの働きかけや取り組み方によって大きな違いが生まれるので、むしろしっかりとサポートをしていきながら様子をみていきましょう」という趣旨に受け止めた方のが正しいそうです。※ただ様子を見ているだけでは、課題を放置しているのと何ら変わりません。

 例)重い自閉症と診断されたお子さんが、早い段階から集中的に療養を受けることで、健常と変わらない状態にまで回復することもあります。

 逆に軽い自閉症のケースでも、適切な働き方やトレーニングによって、弱い部分を強みにできた例もあるそうです。

 また違うケースでは、グレーゾーンを障害ではないと判断し、何の働きかけもせずにいたら、ある時期から急に深刻な問題として表面化する傾向にあります。

 (2)成人期のグレーゾーンの場合

症状や特性が明確になっているものの、診断基準に達しない為に「境界知能」「グレーゾーン」と判定されている。

知的障害と診断されるのは、一般的にはIQ70未満の方(人口2.2%)です。

知的障害のグレーゾーンである「境界知能」とされる人は、IQ70以上85未満(80未満とするケースも有り)の人(人口10数%)です。

グレーゾーンとされる方々が、知的障害と診断される方々よりも多いことがわかります。これは該当者が多いだけでなく、様々なケースも存在することを意味します。

そのようなバリエーションは、個別具体的にその方の個性や特性を生かして生活をしていくためには、グレーゾーンという言葉でひとくくりにせずに、理解し対処していくことが必要です。

IQを調べる知能検査とは

知能検査の一つである「 WISC-IV (ウィスク・フォー)知能検査」の対象者は、5歳0カ月〜16歳11カ月の児童です。

※「 WISC-IV知能検査」は、世界各地でも使用されている児童用の知能検査のようです。

WISC-IV知能検査の内容

「WISC-IV (ウィスク・フォー) 知能検査」は、15の検査「10種類の基本下位検査」、「5種類の補助下位検査(必要があれば行う検査)」で構成されています。

全検査IQ(FSIQ)

全体的な認知能力を表す項目です。補助検査を除いた10種類の基本下位検査の合計から算出されます。

4つの指標得点M

1,言語理解指標(VCI)

言語理解指標(VCI) とは、言語による理解力・推理力・思考力について指標です。

2,知覚推理指標(PRI)

知覚推理指標(PRI) とは、言語を介さない視覚的な情報に触れて推理する力や、視覚的情報に応じて身体を動かす力についての指標です。

図形や地図を理解する、パズルを組み合わせ、単に視覚的な情報処理の能力というだけでなく、視覚的な情報と意味の規則性を見出す能力に関係している。例としてはシンボルやパターンから意味や規則性を読み取る能力。

更には目の前にないものをイメージ化する、図式化する、それよって推論や思考を理解し、答えを導きだす能力とも密接な関係がある。例としては、関数や微分積分などのような数学の理解に不可欠な能力。知覚推理指標 (PRI) の能力を活かす最たるものとしては理論物理学で、実験では確かめられないような現象を、イマジネーション能力で理論を組み立ててしまう。

知覚推理(知覚統合)指標 (PRI) が低いと、図形問題、物理、数学が苦手となりやすい。それだけでなく、場の状況や暗黙の意味に気付きにくく、語られない相手の意図( 相手の出した身振りや手振りといったサイン など)を察すことや、状況判断が難しくなる。

また、全体の中の細かい一つ一つにとらわれ過ぎてしまい、全体像が見えてこず、客観的に俯瞰(ふかん)することが難しい。それは、自分の不満や嘆きにとらわれてしまい、その背景にある問題に気づくことが難しいことも意味している(問題の本質が何であるかに気付けないので、同じ自分の不満や嘆きを繰り返してしまう傾向にある)。

状況を判断し、変化や未来を予測し、損害を避け、有利な選択をできる得るの能力とも表現できる。

知覚推理(知覚統合)指標 (PRI)高いことで問題となるケース

客観視ばかりで、相手に対して共感することや関与することが少なかったり、いかにも他人ごとだというあからさま態度をとったり、分析はしてくれるが、自分のことは自己責任でやってくれと突き放す態度をとったり、優しが欠けると思われる態度をとったりする。

どんなに知覚推理(知覚統合)指標が高くても、社会性、共感性が弱いと、対人関係やコミュニケーションは円滑にはいかない。

知覚推理(知覚統合)指標 (PRI) が低くことで問題となるケース

知覚推理(知覚統合)に問題がある場合の出方には、次の二つのタイプがある。

1)知覚推理(知覚統合)の下と共感性の低下

2)知覚推理(知覚統合)が低いが、共感性に問題がない

1)知覚推理(知覚統合)の低下と共感性の低下

代表例として自閉症スペクトラム症(ASD)の傾向をもつ場合です。

図形や数学、物理、工作が苦手なだけでなく、状況判断や場の空気を読んだりするのが苦手。

2)知覚推理(知覚統合)が低いが、共感性に問題がない

図形や数学、物理、工作が苦手、ものごとを感情的にとらえすぎるため客観視が苦手ではあるが、場の空気を読んだり、相手の表情から気持ちを察すことができる。言語処理や聴覚性のワーキングメモリが優れている。

3,ワーキングメモリー指標(WMI)

ワーキングメモリー指標(WMI) とは、一時的な情報を用いながら処理する能力についての指標です。読み書き、算数などの学習能力や、集中力に大きく影響があることが指摘される。

4,処理速度指標(PSI)

処理速度指標(PSI) とは、視覚情報に対応できるスピードに関する指標です。どうしてもマイペースになる傾向にある場合はこの指標得点が低くなります。

処理速度指標(PSI) は、次の2つによって判定がされます。

1)逐次(ちくじ)処理課題

  注意の維持に関係が深い。

2)同時処理課題

  注意の配分に関係が深い。

処理速度は、注意の維持や注意の配分の各々が弱くても低下することになる。

①注意欠陥・多動性障害(ADHD)の方は、特に注意の維持が低下しやすく、処理の早さ自体は速いけど、慣れて来ると集中力が切れやすく、ミスが増えてしまう傾向にあるようです。

②自閉スペクトラム症(ASD)の方は、注意の配分や切替が苦手で、丁寧になり過ぎたり、一つの課題に気を取られ過ぎてしまい、処理の速さがゆっくりになってしまう傾向にあるようです。

但し、「意思決定」「プランニング」「柔軟性」といった能力については反映がされない。その為、別検査をする必要がありますが、通常の検査では行われないことが多いようです。

その為、下記に実行機能のチェックリストを掲載します。

実行機能のチェックリスト

1)意思決定

・予定のない買い物をしてしまうことが多い

・その場の気分で行動する傾向にある。

2)プランニング

・計画的に行動するのは苦手

・よく説明書を読まずに、いきなり作業をしてしまう

3)柔軟性

・一度やりだすと変更するのが苦手

・同じ失敗を繰り返すことが多い

4)逐次処理課題

・飽きっぽい、何ごとも長続きしない

・根気のいることが苦手

5)同時処理課題

・瞬間的な判断が不得手

・二つのことを同時にやると、効率が落ちてしまう

→上記1)~5)のそれぞれで、二つの項目が該当すると「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」 が疑われます。

私達は、IQと言えば、「IQ104」などのように、「IQ〇〇」という数値の1つだけしかないと思い込んでいましたが、実はそうではないんですよね。

知的障害?それとも発達障害?

知的障害なのか、それとも発達障害かどうかを判断の仕方としては、

(1)全体的な指数(全検査IQ)が、平均と比較をし、平均より低いと「知的障害」があるかどうかが根拠となります。

(2)上記4つの群指数に偏りが強いと「発達障害」が疑われる根拠となります。

 とはいえ、4つの群指数の偏りがあるからといって、それだけでは「発達障害」とは診断されるものではなく、「発達障害」かどうかの判断は、幼い頃から現在に至る症状や生活での支障の大きさによって最終的に判断されるようです。

 このことは、発達検査では大きな偏りがみられるけど、発達障害と診断されないケースも可能性としてはあり、  このケースもグレーゾーンとされています。 

 もっと言うと、発達障害と診断されるような症状や生活ぶりを示していても、発達検査では、4つの群指数に偏りがないケースもあり得ます。

【障害年金】の審査における知能指数は重要か?

下図は、精神の障害用の診断書の裏面です。ご覧になって頂くと解ると思いますが、「カ 臨床検査(心理テスト・認知検査・知能障害の場合は、知能指数、精神年齢を含む。)」欄があり、知能検査については、この欄に記載することになっています。

障害認定基準では『知的障害の認定にあたっては、知能指数のみに着眼することなく、日常生活のさまざまな場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断します。』となっています。

知能指数のみに着眼することなく』とある通り、知能指数は、あくまでも一つの参考程度にするだけです。確かにそうですよ。知能指数だけで、日常生活状況を把握することなどできませんから・・・。

まとめ

「知能指数IQ」の数値だけで【障害年金】を受給できるかどうかは決定しません。あくまでも参考の一つとして扱います。

ですので、「軽度の知的障害」は【障害年金】対象にならない訳ではありませんので、申請を諦めるのではなく、障害認定基準を確認しながらご検討されるのが良いと思います。

最後までお読み頂きまして大変にありがとうございました。

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