下垂体機能低下症

概要

下垂体は頭蓋骨の中にある内分泌器官で、さまざまなホルモンを分泌し、人間の体をコントロールしている。下垂体機能低下症は、下垂体が分泌するホルモンのうち1種類、あるいは複数のホルモンの分泌量が減少することにより引き起こされる。下垂体から分泌される8つのホルモンのうち、「副腎皮質刺激ホルモン」「甲状腺刺激ホルモン」「成長ホルモン」「黄体化ホルモン」「卵胞刺激ホルモン」「プロラクチン」の6つのホルモンが関連して起こり、どのホルモンの分泌量が減少するかにより症状が異なってくる。

原因

下垂体機能低下症の原因としては下垂体腫瘍が最も多く、他に特定の炎症性疾患や下垂体への血流の減少などが挙げられる。下垂体腫瘍自体は良性であることが多いが、正常の下垂体を圧迫することで下垂体機能低下症を引き起こす。また、下垂体腺腫の手術や放射線照射のほか、外傷などが原因で下垂体の機能が低下する場合もある。そして、下垂体だけでなく、頭蓋咽頭腫やラトケ嚢胞といった下垂体の周囲に発生した病気も、ホルモンの分泌量を減少させる原因となる。原因がはっきりしない場合には、何らかの免疫異常が関係している可能性もあると考えられている。多くは遺伝とは無関係だが、血縁者に同じ病気の人がいる場合、下垂体に関係した遺伝子の異常が影響している可能性も考えられる。

症状

大きな下垂体腫瘍が原因の場合は、視野、視力に障害が出る。その他、分泌量が減少している下垂体ホルモンの種類によって症状は多岐にわたる。最も深刻なのは副腎皮質刺激ホルモンの分泌低下で、副腎不全に陥る。食欲不振、体重の減少、重度の倦怠感といった症状が現れ、命に関わる場合もある。また、甲状腺刺激ホルモンが不足すると冷え性、体重増加、皮膚の乾燥などが起こる。そして、成長ホルモンの分泌が低下すると子どもの成長状態が悪くなるほか、大人では体脂肪の増加や筋力低下などの症状が出る。黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモンは、性腺機能の発達や性欲に関わるホルモンで、減少すると女性では無月経や不妊、男性では性欲低下や勃起障害が起こる。プロラクチンは母乳の産生に関わるホルモンで、減少すると母乳の量が減ったり、出なくなったりする。

検査・診断

血液検査で各種ホルモンの血液濃度を測定し、どのホルモンの分泌量が減少しているのかを確認する。ほかに尿中のホルモンを測定するため尿検査を行う場合や、複数の負荷試験が必要な場合もある。また、下垂体機能低下症の原因を特定するためにCTやMRIの画像検査を行う。下垂体腺腫などの腫瘍が見られる場合には、腫瘍の広がり具合も確認される。さらに、下垂体以外にも病変が広がっている可能性を考え、心電図検査による不整脈の評価、胸部エックス線によるリンパ節の腫れの評価、眼底検査によるぶどう膜炎の検査など、多岐にわたる検査が行われる。

引用元:下垂体機能低下症
欠乏する下垂体ホルモン欠乏する末梢ホルモン出現しやすい症状
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)副腎皮質刺激ホルモン副腎不全症状 (疲れやすい、血圧が低い、食欲がなく痩せる、血糖値や血中ナトリウム値が低く、頭がぼーっとしたり意識が無くなったりする、など)
甲状腺刺激ホルモン(TSH)甲状腺刺激ホルモン甲状腺機能低下症状 (寒がり、低体温、脱毛、皮膚が乾燥して荒れる、脈が遅い、声が低く喋り方がゆっくりになる、記憶力・集中力が低下する、など)
GHIGF-I小児: 成長障害(低身長)など。成人:体脂肪増加、筋肉減少、骨粗鬆症、スタミナ低下など
黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲン)小児: 思春期以後も二次性徴が出現しない。成人男性: 性欲低下、ED、男性不妊など。成人女性: 無月経、不妊など。
プロラクチンなし女性:授乳中の乳汁分泌低下。男性:明かな症状なし。