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発達障害と知的障害の違いについて

ある方から「発達障害と知的障害の違いって何ですか?」とご相談の中でご質問がありました。

そこで、障害年金の受給手続きをするに当たり、「発達障害」と「知的障害」の違いについて解説します。ご興味がある方は是非ご覧下さい。

まず「発達障害」と「知的障害」の、そもそもの違いを把握した上で、その違いが障害年金の受給手続きをする上でどのような違いとなるか、という流れで解説を進めていきます。

そもそも「発達障害 」 と 「知的障害」の違い

知的障害と発達障害の関係性について、何が違うのか多くの方が疑問に感じているのではないでしょうか。これらについて、どのような関係があるのかを考えてみましょう。

知的障害と発達障害は、それぞれが独立した障害カテゴリーとして存在しています。しかしながら、両方の特性を併せ持つケースは決して珍しくありません。知的障害がある方の中には発達障害の特性も見られる場合があり、逆に発達障害の方の多くは知的能力に問題はないものの、一部の方には知的障害を伴うこともあります。このような重複性が、両者の関係性について混乱を生じさせる原因となっていると考えられます。

そして、より広い視点から見ると、両者はともに包括的な精神障害の枠組みの中に位置づけられます。精神障害という大きな概念の中に、発達障害と知的障害という異なる障害群が存在しているのです。さらに、この精神障害という枠組みには、一般的に言う精神疾患なども含まれています。特に医療の文脈では、このような広義の精神障害という捉え方が一般的です。

上記をご覧いただくとおわかりのように、複雑な関係性があるため、両者の区別に戸惑いを感じるのは自然なことと言えます。これは単に分類の問題というだけでなく、現実の症状や特性が複雑に絡み合っているためです。

わかりやすい例えとして、スポーツの世界を考えてみましょう。例えば、球技をする人々のグループと陸上競技をする人々のグループがあります。中には両方の競技に参加する人もいるでしょう。そして、これらはすべて「スポーツをする人々」という大きな枠組みの中に含まれています。発達障害と知的障害の関係も、これと同様の構造を持っている訳です。このように、これは物事を整理するための分類方法の一つであり、現実はより複雑で多様な様相を呈しているということです。

発達障害とは

【発達障害】について、その本質を理解することは重要です。これは精神障害の広範な分類の一部として位置づけられており、その根本には脳機能の特異性が関わっています。

このように、具体的には、脳の特定の部位における機能の働き方が通常とは異なることで生じると考えられています。重要な特徴として、一人の方が複数の発達障害の特性を示すことがあり、また同じタイプの発達障害と診断された方々の間でも、その現れ方には大きな個人差が見られます。

さらに特筆すべき点として、発達障害は必ずしも知的能力の制限を意味するものではありません。それぞれの方が持つ能力や特性は多様で、独自の形で表れることがわかっています。

1,発達障害の分類

発達障害を大きく分けると、広汎性発達障害、学習障害、ADHDの3つがあります。

(1)広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー症候群など)

自閉スペクトラム症は、その名称が示す通り、症状が連続的なスペクトラム(幅)を持つ発達障害です。この障害の主な特徴として、人との関わりやコミュニケーションにおける独特の困難さ、そして特定の物事への強い興味や独特な行動パターンが挙げられます。

この障害は、かつては症状の表れ方や程度によって、自閉症やアスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害など、いくつかの異なる診断名で区別されていました。しかし、現在の医学的理解では、これらは全て同一の障害スペクトラム上に位置する状態として捉えられています。つまり、それぞれの症状の強さや組み合わせは個人によって異なりますが、根本的には同じ障害の異なる表現型として理解されています。

(2)学習障害

学習障害(LD:Learning Disabilities)は、独特な特徴を持つ発達障害の一つです。この障害を持つ方々の特徴として興味深いのは、全体的な知的能力は十分に備わっているにもかかわらず、特定の学習領域において際立った困難さを示すという点です。

具体的には、文字を読むこと、文章を書き表すこと、言葉で自分の考えを表現すること、または数的処理や論理的思考を必要とする計算・推論といった、特定の認知処理過程において著しい困難を経験します。つまり、これらの困難さは、その方の全般的な知的能力からは予測できないほどの顕著なものとなることが特徴です。

(3)注意欠陥多動性障害 (ADHD)

注意欠陥多動性障害(AD/HD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、年齢相応の行動調整が困難となる発達障害です。この障害は主に二つの特徴的な症状によって特徴づけられます。

一つ目は「不注意」の症状です。必要な作業や活動に意識を集中し続けることが難しく、外部の刺激に気を取られやすい傾向が見られます。また、持ち物の管理が難しかったり、物事を順序立てて進めることに苦労することもよくあります。

次に、二つ目は「多動-衝動性」の症状です。その場に応じた適切な行動を調整することが困難になる状態が典型的です。例えば、静かに座っていることやじっとすることが著しく困難であったり、順番を待つことが苦手であるといった形で現れることがあります。

加えて、これらの症状は一時的なものではなく、持続的に表れることが特徴です。その強さは発達段階から期待される水準を大きく超える場合が多いとされています。

知的障害とは

【知的障害】 は、「精神遅滞」と同じ意味で使われています。

1,精神遅滞(知的障害)とは

精神遅滞(知的障害) とは、発達期までの知的発達の遅れで、日常生活を送る上で適用が困難になっている状態のことです。医学的には次の3つの条件があります。

①知的機能の遅滞があるIQ70以下

②生活上の適応機能に制限がある。

③概ね18歳未満で現われる。

2,精神遅滞(知的障害)の原因

精神遅滞(知的障害) の原因は非常に多様で、特定できないケースも少なくありませんが、ここでは主に四つの観点をみていきたいと思います。

(1)生理的(または突発的)要因

生理的(または突発的)要因 は、特定の疾患や異常が認められないにもかかわらず、知的能力や社会適応能力が通常の範囲を下回る状態を指します。

(2)先天的要因

先天的要因 は、胎児期から出生時までに生じる要因を指します。具体例としては、周産期における感染症への罹患や有害物質への曝露、さらにダウン症などの染色体異常が挙げられます。加えて、先天性代謝異常も含まれ、この場合は新生児検査で発見され、適切な投薬や食事管理による治療介入が可能な場合もあります。先天性代謝異常も含まれ、この場合は新生児検査で発見され、適切な投薬や食事管理による治療介入が可能な場合もあります。

(3)後天的要因

後天的要因 は、出生後に発生する様々な状況が原因となるケースです。例えば、日本脳炎やポリオといった感染症が重症化して脳炎を引き起こすことで知的障害につながる可能性があります。なお、これらの多くは予防接種により予防が可能です。また、頭部への重大な外傷や幼少期における深刻な栄養不良なども、知的障害の原因となり得ます。

(4)遺伝的要因

知的障害の中には遺伝的要素が関与するものも確かに存在しますが、これは「知的障害が必ず遺伝する」ということを意味するものではありません。親が遺伝的素因を持っていたとしても、それが子どもに確実に受け継がれるわけではなく、また受け継がれたとしても必ずしも症状として現れるわけではありません。

実際、遺伝性疾患の大部分は、健常な遺伝子や染色体に突然変異が生じることで発生します。このように、つまり、これは特定の家系に限られた現象ではなく、誰にでも起こり得る可能性のあるものだと理解することが重要です。

知的障害の原因のまとめ

上記の知的障害の原因を、出生前の要因(遺伝子異常、先天性代謝異常、脳の形成異常など)と、出生後の要因(酸素不足による脳障害、外傷性の脳損傷、感染症、有害物質による中毒など)に大別することができます。

また、福祉制度の観点からみると、知的障害者福祉法が主要な法的基盤となっており、これに基づいて各都道府県で療育手帳制度が運用されています。しかし、興味深いことに、法律上では「知的障害」の明確な定義が存在していません。そのため、実務上は療育手帳制度における判定基準が、事実上の「知的障害」の定義として機能しているのが現状です。

3,療育手帳の判定

この療育手帳の判定は、知的機能(IQ70以下が目安)と適応機能(生活支援の必要性を含む)の両面から総合的に評価されます。障害の程度は主に重度とその他に分類されますが、具体的な基準や利用可能な福祉サービスは都道府県により異なります。

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4,精神遅滞(知的障害)の発見時期

精神遅滞(知的障害) の発見時期は、その程度によって様々です。中程度以上の場合は3歳児健診までに把握されることが多いのですが、軽度の場合は就学時期や、さらに後の学習過程で明らかになることもあります。

なお、余談ですが、最新の統計では日本における知的障害のある方の総数は74.1万人と推計されており、これは10年前と比較して約20万人の増加を示しています。その内訳を見ると、62.2万人(80%以上)が在宅で生活されており、年齢別では18歳未満が15.2万人、18歳~65歳が40.8万人、65歳以上が5.8万人となっています。男女比は1.3対1で、日本の総人口の約0.6%に相当し、この比率は緩やかな増加傾向にあります。

5, 精神遅滞(知的障害)の 程度と特徴

精神遅滞(知的障害) の重症度は四段階で評価されることが一般的です。具体的には「軽度」「中等度」「重度」「最重度」という区分が設けられています。

札幌市の場合は、知的障がいの程度によって、療育手帳に3つの区分があります。

  • 「A」・・・・最重度、重度
  • 「B」・・・・中度
  • 「B-」・・・軽度

この判定には主に二つの重要な評価基準が用いられます。一つは標準化された知能検査によって測定される知的能力のレベル、もう一つは日常生活における実践的な能力の水準です。後者には、身の回りの自己管理能力、身体運動の制御能力、他者とのコミュニケーション能力、自力での移動能力などが含まれます。

その結果、これらの総合的な評価に基づいて障害の程度が判定されます。一方で、療育手帳の交付に関する具体的な判定基準は地域によって若干の違いが見られるようです。各自治体が地域の実情に応じて、独自の判定基準を設けている場合があるからです。

このような評価システムは、個々の方の支援ニーズをより正確に把握し、適切な福祉サービスを提供するための重要な指標として機能しています。

※下図は、札幌市HPに同様の図が見当たらなかった為、兵庫県HPから参照用で貼らせて頂いています。

6,WISC-IV知能検査の内容

「WISC-IV (ウィスク・フォー) 知能検査」は、15の検査「10種類の基本下位検査」、「5種類の補助下位検査(必要があれば行う検査)」で構成されています。

全検査IQ(FSIQ)

全体的な認知能力を表す項目です。補助検査を除いた10種類の基本下位検査の合計から算出されます。

4つの指標得点M
1,言語理解指標(VCI)

(1)言語理解指標(VCI) とは、言語による理解力・推理力・思考力について指標です。

(2)言語理解指標(VCI)の検査には、次の5種類があります。

 ・基本検査

  ①類似

  ②単語

  ③理解

 ・補助検査

  ④知識 

  ⑤語の推理

言語理解指標(VCI)高い場合は、言語的推論能力(資料を分析・評価し、そこから得られる情報を合成したり、文章の構成要素間の関係を分析したりする能力)が高く、色んな言葉を知っている、話し相手の言葉の意味や内容を理解し、効果的に表現する能力があることを示唆しています。

逆に、低い場合は、話し相手の言葉その意味、話の内容を理解し、話しを通して表現をすることが困難であることを示し、学校成績や社会的交流に影響する可能性がある。

2,知覚推理指標(PRI)

知覚推理指標(PRI) とは、視覚的な情報に触れて推理する力や、視覚的情報に応じて身体を動かす力についての指標です。こと視覚的な情報は動的なケースもあり得るので、そういう意味では、新しい情報に対する対応力、そして解決能力に及ぶものと考えられています。

知覚的推理指標(PRI)で検査では、実際に目で見た情報を理解力を中心とした検査です。検査は回答を実際に手を動かして行ってもらいます。視覚からの情報を適切に処理し、合わせて手を動かすことで確認するためです。

知覚推理指標(PRI)  が高い場合は、図面を描く、図面を理解す、地図を読むのが得意なことを示唆しています。

3,ワーキングメモリー指標(WMI)

ワーキングメモリー指標(WMI) とは、一時的な情報を用いながら処理する能力についての指標です。読み書き、算数などの学習能力や、集中力に大きく影響があることが指摘される。

4,処理速度指標(PSI)

処理速度指標(PSI) とは、視覚情報に対応できるスピードに関する指標です。どうしてもマイペースになる傾向にある場合はこの指標得点が低くなります。

私達は、IQと言えば、「IQ104」などのように、「IQ〇〇」という数値の1つだけしかないと思い込んでいましたが、実はそうではないんですよね。

知的障害と発達障害の判別違い

知能検査によって知的障害なのか、それとも発達障害かどう判断されるのかについて、ある書籍によると下記のように書いてありました。

(1)全体的な指数(全検査IQ)が、平均と比較をし、平均より低いと「知的障害」があるかどうかが根拠となります。

(2)上記4つの群指数に偏りが強いと「発達障害」が疑われる根拠となります。

 とはいえ、4つの群指数の偏りがあるからといって、それだけでは「発達障害」とは診断されるものではなく、「発達障害」かどうかの判断は、幼い頃から現在に至る症状や生活での支障の大きさによって最終的に判断されるようです。

 このことは、発達検査では大きな偏りがみられるけど、発達障害と診断されないケースも可能性としてはあり、このケースもグレーゾーンとされています。 

 もっと言うと、発達障害と診断されるような症状や生活ぶりを示していても、発達検査では、4つの群指数に偏りがないケースもあり得ます。

障害年金の手続きにおける「発達障害」と「知的障害」の扱い

障害年金の手続きにおいては、「知的障害」の場合は国民年金の障害基礎年金しか利用できませんが、「発達障害」は、国民年金の障害基礎年金は勿論のこと、場合によっては厚生年金保険の障害厚生年金を利用できるケースもあります。

では、何故そのような扱い方が異なるのかをみていきましょう。

「初診日」の考え方の違いとその影響

「障害年金」を受給要件をご確認して頂くと、「初診日」がとても重要であることはご理解して頂けるかと思います。※具体的に「障害年金」を受給要件については、こちらをご覧ください。

この「初診日」について扱い方が「発達障害」と「知的障害」では異なるため、上記のような違いとなります。

具体的には、通常の「初診日」の考え方としては、何かしらの病気が発症等して初めて病院に通院した日を「初診日」と言います。※「初診日」について詳しくお知りになりたい方は、こちらをご覧ください。

「発達障害」の場合、「初診日」については、原則通りの考え方ですが、「知的障害」の場合は、生まれつきという考えとなるので、いくら成人してから病院に初めて通院したとしても、その日が「初診日」と扱われず、「誕生日」を「初診日」として取り扱われます。

したがって、「知的障害」で「障害年金」を手続きをする際は、必ず国民年金の障害基礎年金を利用することになります。

「発達障害」「知的障害」で障害年金の手続きする際の重要なポイントは?

障害年金を請求しようとお考え方が、「発達障害」又は「知的障害」、又は「発達障害」「知的障害」の双方の症状を抱えている場合、手続きを進める上でとても重要なことがあります。

それは、日常生活状況の把握です。

もっと言うと、日常生活状況を第三者に理解して貰えるように文章化することです。

何故、第三者に?

では、文章化しないといけないの?

(1)第三者に理解して貰う理由

二つの状況が考えられます。

①障害年金用の診断書作成時に主治医に知って貰う必要があります。

 障害の傾向性までは解っていらっしゃっても、普段の日常生活状況については聞かないと解らないことが多いはずです。

②障害年金の年金請求書提出後の審査過程において、嘱託の医師が障害の程度を判断する際に知って欲しい、理解して欲しいからです。しっかり理解して欲しいことを漏れなく、悔いが残らないように障害年金の書類を整備して手続をしたいものです。

(2)文章化する理由

このように、上記(1)①②をご覧頂けると、共に文章化が出来ていると良いことはご理解して頂けると思います。

特に障害年金の審査過程においては書面でしか審査されませんので尚更です。

日常生活状況の把握 においての違いはあるのか

この日常生活状況の把握において、「発達障害」と「知的障害」の違いがあるのでしょうか。

ここに関しては特になく、 把握すべき日常生活状況の項目は「発達障害」と「知的障害」では同じ項目となります。

把握すべき日常生活状況の項目

(1)適切な食事

(2)身辺の清潔保持

(3)金銭管理と買い物

(4)通院と服薬

(5)他人との意思伝達及び対人関係

(6)身辺の安全保持及び危機対応

(7)社会性

上記7個の項目を中心に聞取りをして「日常生活状況」を把握することになります。

さらに、この7個の項目は、障害年金用の診断書の項目でもあります。

精神の障害用の診断書における違い

障害年金の受給手続きをする際に必要な書類の1つである主治医に作成して貰う「診断書」。

先程述べた通り、日常生活状況の把握を診断書に評価していくことになりますが、項目が同じであれば「診断書」上では「発達障害」と「知的障害」との違いはないように思いがちですが、実際には異なる扱い方となります。

また、「発達障害」と「知的障害」の両方を抱えている場合も区別する必要があります。

まとめ

「発達障害」と「知的障害」は、障害年金の受給手続きにおいては大きな違いがありませんが、障害年金の「診断書」においては区別される、ことになります。

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